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糖と食物繊維を考える

先日、テレ系の朝の番組で食物繊維(とタンパク質)が血糖値の上昇を抑える、という特集をやっていましたが、内容に大きな誤解があるので解説します。

タンパク質の話は別の機会に据え置きまして、食物繊維の話をします。
番組では、野菜の後に炭水化物(糖の集まったものです)という順番で食事をとると、その逆の順番で食事をした場合に比べて、血糖値の上昇が抑えられるというものです。これは事実だと思います(出典は大阪府立大の今井先生の論文と思われます)。
しかしその理由として解説していた某医師は、下の写真のように、先に食物繊維を食べておくと、食物繊維が小腸の壁にへばりつく膜のような形で、後で食べた炭水化物や糖分をブロックしてくれる、と言っていました。
これは間違いです。
確かにフコイダンなどのドロドロしたイメージの食物繊維は粘り気があるため、腸内での消化速度が遅いということはありますが、右の画像のように腸壁にへばりついて糖分をブロックするという機能はありません。

食物繊維とタンパク質 血糖値の上昇

食物繊維の持つ性質の一つとして、水分を吸収するというものがあります。その性質のおかげで腸内に発生した有害物を吸収してくれたりもします。
血糖値の上昇が抑えられるのは、この吸収性の良さによって、水溶性である単糖や二糖にまで分解された炭水化物の糖分が食物繊維に吸収され体外に排泄されたり、同時に腸内細菌の栄養源となって(資化されるといいます)しまうので、腸壁から吸収される割合が低下するからです。

人体の構造、消化吸収の仕組み、腸内細菌の性質、免疫系の仕組みなど、多岐にわたる知識がないとなかなか理解できないシステムではありますが、腸の壁に粘りついてブロック・・・という解説はあまりにもお粗末です。

以下、糖と食物繊維について簡単に解説します。

私たちが食べる食品に含まれている糖分は、主にデンプンや単糖、二糖類と言った形で含まれています。

最小単位としての糖の構造は、単糖(ブドウ糖・ガラクトース)なのですが、これが2つ繋がったものが二糖類(ショ糖・乳糖・麦芽糖)です。

デンプンは単糖のブトウ糖がさらに複数繋がった物なので、多糖に分類されます。

糖の構造式

どこで吸収されるか

お酒などのアルコール類を飲むと、胃から20%、小腸から80%吸収されますが、口から入った水分はすべて小腸で吸収されます。

単糖や二糖類は水溶性ですので、ジュースなどの飲み物に溶けて含まれている糖分は、すばやく胃を通過して小腸から吸収され始めます。

固形物に含まれている単糖類も、咀嚼している際に唾液の水分に溶け出し、10分程度で小腸から吸収が始まります。

一方、デンプンの形で存在している糖分は、まず唾液中のアミラーゼ(消化酵素)でブドウ糖や麦芽糖などに分解され、さらに麦芽糖は膵臓や小腸の分泌する酵素(αグルコシダーゼ)によってブドウ糖など単糖に分解されます。

ショ糖は小腸のスクラーゼでブドウ糖と果糖となり、 結局、糖分は全て小腸で吸収されるのです。

糖と血糖値

血糖値は食事を始めてから20分ぐらいで上昇を始め、血中濃度は2時間後くらいが一番高くなります。

つまり、見かけ上は食物が小腸に到達する以前から吸収が始まっていることになりますが、固形物が胃でまだ消化過程にある間に、実際は水溶性の単糖や二糖類が先に小腸に到達しているからです。

低血糖症状の患者さんに、水溶性・液体であるブドウ糖や缶ジュースを飲ませる応急手当があるのは、このためです。

どのように吸収されるか

さて問題は糖類が分解され吸収されるタイミングと時間です。前述のように食品に含まれる水溶性の単糖や二糖類は10分くらいで小腸に到達して吸収が始まりますが、それより大きな糖は酵素で分解されるまで吸収が遅れますので、少し時間がかかります。

食物繊維の役割

食物繊維の性質の一つに、水分の吸収があります。食物繊維と単糖類を同時に摂取しますと、水溶性の単糖などが食物繊維に吸収された状態で小腸に到達した場合、腸壁から吸収されないまま排泄される、あるいは腸内細菌の栄養素となって人体には吸収されない場合が考えられます。

最近よく、野菜などの食物繊維を最初に食べて、次にでんぷんなどを含むご飯を食べた方が太らない、という話が報道されていますが、これも同じ理屈です。

食物繊維が先に腸で待ち受けている状態に水溶性の単糖類が流れて来た場合、腸壁から吸収されて細胞のエネルギーとなる他に、食物繊維に吸収されて排泄されたり、単糖類が食物繊維に吸収されたまま腸内細菌のエサとなり(資化されると言います)、人体には吸収されないことがあるからです。

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