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菌の活性度とは何か

このホームページには、随所に菌の活性度という言葉が出てきます。
腸内細菌や乳酸菌の業界には、加齢に伴って菌の数が減るという記事や宣伝は多いのですが、活性度が云々という内容は一般的ではなく、ほぼ見当たりません。
ここに登場する活性度とは、言わば菌が如何に元気であるかという尺度のことです。元気な菌というイメージはわかないと思いますが、乳酸菌に限らず菌は生き物ですので、元気な菌もいれば死滅する寸前の菌も存在します。
具体的には、一定の栄養や環境を与えた時にどのくらいの時間で一定の数まで増殖するか、という方法で活性度を測定することができます。増殖の度合いは培養している状態で培養液の濁度(だくど〜濁り具合)を測ったり、 単位体積あたりの菌数を実際に数えることもあります。
そのようにして測定した菌の数が多いか少ないかを、同じ種類の菌同士で比較することによって、その菌が活性度が高い菌か低い菌かが判別できます。
活性度が低い菌にいくら豊富な栄養を与えてもなかなか増殖せず、菌が行う仕事が制限されてしまいます。
私たち研究者が購入したり譲渡される菌の中にも、時おり活性度が低い菌があり、そのような場合は購入元や譲渡元に連絡して、培養条件を変えてなんとか菌を元気にするように努力します。
しかし元々元気な菌が「眠っている」場合は、多少培養温度を上げたり培養時間を増やすことで「起こす」こともできますが、何年も冷蔵されていた菌や保存状態が悪く、活性度が低下してしまった菌の場合は、活性度が戻らないことがよくあります。
普段の生活の中でも、例えば購入したヨーグルトを冷蔵庫の中で長期間保存していたような場合は、低栄養状態の中で菌の活性度が低下してしまい、そのような製品を食べても体内で働かずに排泄されてしまうことが考えられます。
もしスーパーで乳酸菌製品を買う場合は、なるべく製造から時間の経っていないものを、購入後すぐに食べるのが良いと思います。
余談ですが、同様の事が市販されている乳酸菌製品で確認された事があります。
乳酸菌をマイクロカプセルに封入したことで、カプセルに入ったまま胃を通過するため、胃酸に負けずに長に届くという某乳酸菌製品を培養した際のことですが、菌をカプセルに封入する際に熱などのストレスがかかったらしく、様々な培養環境での培養を試みましたが、結局「起きてくる」菌がわずかしかいないため、 腸内で働く事は期待できない状態でした。


さて、下のグラフは、光岡先生が最初に書かれた年代別に腸内細菌の種類と数が変化する様子を表したものです。

老化と腸内細菌

確かに、年代とともに善玉菌や悪玉菌と呼ばれる腸内細菌の数が変化していく様がよく分かりますが、それぞれの菌がそれぞれの時期に、どのような状態になっているかは、この当時の技術では探ることはできませんでした。
その後、 次世代シークエンサーなどが開発され、細菌を含む生き物の細胞内に存在する遺伝子をメタゲノム解析することができるようになったことで状況が一変し、沢山の細菌の状態が一度にリアルタイムで解析ができるようになりました。

次世代シークエンサー

その結果、例えば高齢者の腸内に生息する乳酸菌は、短鎖脂肪酸などの生産物質を作り出す 遺伝子そのものが消失してしまうことが判明し、腸内細菌が他の細胞同様に老化することが証明されました。 高齢者の乳酸菌がもはや短鎖脂肪酸などの生産物質を作り出せなくなっているという事実を、我々は菌の活性度が低下したという表現を行なっています。 活性度の低下した菌に、豊富な栄養を与えて至適温度(菌が一番増えやすく、菌にとって快適な温度)で培養しても、なかなか活性度が上がらないのは、遺伝子レベルで菌が老化していくことが原因だったのだと分かりました。
つまり、一見歳を追って数だけが変化しているように見えるこのグラフは、菌の数だけを捉えたものであり、実際はその陰で菌の能力自体、つまり活性度が変化していると考えるべきなのです。

また、 腸内細菌以外の業界でも、菌の増殖力などの活性度が数十年という長いスパンで測定されたり、研究評価されることはまずありません。
例えば肥料や飼料の世界で使われる菌類についても、菌数を増殖の指標として扱われる事はあっても、その菌の能力を数以外の活性度という指標で判断するような発表も見当たりません。
肥料にしてもヨーグルトにしても、培養には培地や至適温度、phなどを変えて販売のための最適条件を探り当てるという、経済的な目的が強いからです。
研究目的であっても、 一人の糞便から菌を数十年間続けて採取し分析し続けるのは困難ですし、食べ物や体調などの条件を一定の条件に保つのは不可能に近いため、そのような研究はあまり意味を持ちません。
そこで実際は、赤ちゃんの菌ばかりを集めたり、若者や老人を集めて便を採取して、年齢ごとに特徴を比較したりしてきたわけです。
しかし、私たちが知りたい事はそのような一般論ではなく、現在の私たち自身の腸内菌がどのような状態になっているか、ではないでしょうか。
10代から20代の若者であれば、光岡教授のグラフによって善玉菌優勢の状態になってることが期待されますので、腸内菌を増やすようなプレバイオティクスを食べたり、食事内容に気を使うことで、活性度が高い腸内菌に良好な生産物質を作らせることが可能でしょう。 しかし中年以降、老化に伴って腸内細菌そのものが老化し、活性度が低下してしまった場合、いくら菌を増やそうとしても、現実にはもう若い頃のようには増えてくれない状況になっていると思われます。

残念ながら現在はまだ、一人の人間の腸内細菌の状態を、長期間追いかけるようなコホート研究の報告はありませんので、我々は以上のような断片的な事実から想像するしかありません。
菌そのものの働きに期待できないとすれば、菌に栄養を与えて増やすという考えを転換し、活性度の高い菌の代謝物を送り込むという、私たちの提唱する方法が理屈の上でも的を得ていると言えるのではないでしょうか。



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